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大阪高等裁判所 昭和31年(ネ)2号 判決 1958年5月14日

大阪市東区北浜二丁目一番地

昭和三十一年(ネ)第六号事件控訴人

昭和三十一年(ネ)第二号事件被控訴人

第一審原告

大阪不動産株式会社

右代表者代表取締役

奥田福一

右訴訟代理人弁護士

水田猛男

大阪市天王寺区

昭和三十一年(ネ)第六号事件被控訴人

昭和三十一年(ネ)第二号事件控訴人

第一審被告

天王寺税務署長 門脇安吉

右指定代理人

辻本勇

今井三雄

右当事者間の行政処分取消請求控訴事件について、当裁判所は昭和三十二年十一月四日終結した口頭弁論に基いて次のとおり判決する。

主文

第一審原告の本件控訴を棄却する。

原判決主文第二項から第四項まで(第三項は昭和三十一年一月二十六日の更正決定によるもの。)を取り消す。

第一審被告がした第一審原告の昭和二十三年十二月一日から昭和二十四年十一月三十日までの事業年度所得金額普通所得一、二〇〇、六四七円、超過所得四八〇、六四七円とする更正の内、所得金額普道所得五一六、四九四円を超える部分を取り消す。

第一審原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ、その一〇分の六を第一審原告の負担とし、一〇分の四を第一審被告の負担とする。

事実

第一審原告は、昭和三十一年(ネ)第六号事件について、「原判決中第一審原告敗訴部分を取り消す。第一審被告がした第一審原告の昭和二十二年十二月一日から昭和二十三年十一月三十日までの事業年度所得金額の更正の内大阪国税局長の認容した四三、〇九三円を取り消す。第一審被告がした第一審原告の昭和二十三年十二月一日から昭和二十四年十一月三十日までの事業年度所得金額普通所得一、二〇〇、六四七円、超過所得四八〇、六四七円とする更正を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。」との判決を求め、昭和三十一年(ネ)第二号事件について、「第一審被告の本件控訴を棄却する。控訴費用は第一審被告の負担とする。」との判決を求め、第一審被告は、昭和三十一年(ネ)第六号事件について、「第一審原告の本件控訴を棄却する。控訴費用は第一審原告の負担とする。」との判決を求め、昭和三十一年(ネ)第二号事件について、「原判決中第一審被告敗訴部分を取り消す。第一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張は、第一審原告の方で、

(一)  第一審原告は同族会社ではない。第一審原告増資の際株式申込をした者がその後権利を他に譲渡したため株式申込書に記載せられた者と株主名簿記載の株主との間に異動はあつたが、株主名簿記載の株主はすべて真実の株主である。第一審被告がした本件更正決定は大阪国税局長の指示に基く枠課税であつて、何等の根拠がないものである。第一審被告は本件更正決定に当り第一審原告を同族会社として取り扱つていなかつた。

(二)  昭和二十三年度収入の部貸家料八九、〇二四円三八銭に三カ月の賃料一八、〇〇〇円の計上もれはない。ホテルは第一審原告が昭和二十一年十一月六日石神豊一から買い受け昭和二十二年二月まで改造にかかり、同年三月一日初めて網本庄太郎にこれを賃料一カ月六、〇〇〇円で賃貸したものである。

(三)  昭和二十四年度キヤバレーの総売上高について、キヤバレーでビールを料理つきで一本三〇〇円、後に二五〇円で販売したことはあるが、突出つきビールをそのような高価に販売したことはない。ビール一本原価一二六円五〇銭のものを三〇〇円で販売すれば荒利益は一二割弱となり、近鉄沿線の通勤者を大部分の顧客とするキヤバレーでそのような暴利をとつては、とうてい経営が成り立たない。日本酒一升からちようし一二本を取ることは常識に反する。

昭和二十四年当時はインフレーションの時代であつたが、昭和二十六年当時は経済状態に変化を生じ、昭和二十六年頃から昭和二十八年頃までの酒類と料理の荒利益率平均五六パーセントを下らないからといつて、昭和二十四年当時もこれと同程度の荒利益があつたものと推認することは不可能である。昭和二十四年当時一般にキヤバレーではビール一本一五〇円から一八〇円までで販売していたものであつて、第一審原告のキヤバレーのビールの販売価格を一本一八〇円として計算すれば、第一審被告主張のビール売上高一、四九七、六八六円より五二九、〇〇〇円少額の九六八、六八六円となる。と述べ、

第一審被告の方で、

(一)  第一審原告は旧法人税法(昭和二十五年法律第六九号による改正前の昭和二十二年法律第二八号)三四条二項に定める同族会社である。昭和二十三年二月二十八日の第一次増資においてその登記申請書添付の株式申込書記載の名義人と株主名簿記載の株主が過半数一致しないことからみても、表面的形式的株主が実質の株主と異ることが明らかである。乙第一号証の陳述書において大和藤兵衛は第一審原告の株式一六、〇〇〇株を引き受けたことを明言しているのである。昭和二十四年四月十九日の第二次増資においても、第一審原告は大和藤兵衛の一族が資金を調達し払込をしながら、株主名簿その他の書類上の表現を多数の株主から払込がされたように整えたものである。

(二)  昭和二十三年度天王ホテルの賃料について、第一審原告はあらたに網本庄太郎に賃貸するに当り、地代家賃統制令による認可申請をしなければならないのに、申請をすれば適正額が明らかとなり過少賃料で役員に有利に利用させていることが発覚するのを恐れて申請しなかつたものである。網本庄太郎にホテルを賃貸した形式になつているが、実際は大和藤兵衛、大和源三郎の命令監督の下にホテル経営をしていたものである。

(三)  昭和二十四年度キヤバレー総売上高について、キヤバレー経営の総平均利益率は五六パーセントであるが、売上品目毎にその荒利益率は異るのであつて、洋酒、さかな類、果物類に対して総平均荒利益率の五六パーセントを適用すべきものではない。当事者間に争のない第一審原告の総仕入金額二、一四二、七六七円に対し五六パーセントの荒利益率で総売上高を算出すると四、八六九、九二五円となり、第一審被告主張の四、八〇七、四〇〇円を上廻ることとなつて、第一審被告の計算が過当でないことを示している。

(四)  昭和二十四年度ホテル総売上高について、天王ホテルは新築に等しい部屋を有し、天王寺区管内同業者中高級の部に属していた(乙第三二号証参照)。従つて宿泊のみの料金は四〇〇円を下るものでなく、二〇〇円のような低額のものでない。と述べた外、いずれも原判決事実記載(但し、原判決三枚目表一三行目に「相当」とあるのを「担当」と改め、同五枚目裏五行目に「原告」とあるのを「被告」と改める。)と同一であるから、これを引用する。

当事者双方の証拠の提出援用認否は、

第一審原告の方で、甲第一四号証を提出し、当審証人大和源三郎、石川与市、増田幸次郎、香月久子、川崎政次郎の証言を援用する。乙第三四号証は不知と述べ、

第一審被告の方で、乙第三四号証を提出し、当審証人稲岡喜一郎、伝崎正郎、斎藤義勝、吉城貫一郎、今西弁之助の証言を援用する。甲第一四号証は不知と述べた外、

いずれも原判決事実記載(但し、原判決四枚目表一行目「第三十一」の次に「号証の一、二」を加え、同一行目から二行目までの「の各一、二」を削る。)と同一であるから、これを引用する。

理由

第一審原告がその主張のような目的を有する株式会社であること、第一審原告がその主張のような昭和二十三年度同二十四年度の所得申告をしたところ、第一審被告が第一審原告主張のとおり更正をし、その主張の日に第一審原告に通知したので、第一審原告は大阪国税局長に審査請求をしたところ、同局長は第一審原告主張のとおり審査決定をし、その主張の日に第一審原告に通知したことは当事者間に争がない。

(一)  第一審原告が同族会社であるかどうかについて。

乙第一号証には「大和藤兵衛は第一審原告が天王ホテルの建物を買い受けるに当りその代金改増築費什器装飾費等合計一〇三万円を立替えたが、第一審原告増資の際その返金を受け藤兵衛はこれで第一審原告の株式一六、〇〇〇株の引受をした。」旨の記載があり、乙第二号証の資産表には第一審原告の株式一六、〇〇〇株の記載があるけれども、乙第一、第二号証の成立は第一審原告の否認するところであつて、当審証人吉城貫一郎の証言によると、大和藤兵衛は乙第一号証に署名押印することを求められたが応じなかつたことが認められ、同証言によりその成立の認められる乙第三十四号証の大和藤兵衛に対する聴取書と対比すると、右聴取書には天王ホテルに関する問答中に乙第一号証の右記載と同旨の記載なく、右聴取書添付の株式表には第一審原告の株式の記載がないとの事実と原審証人大和藤兵衛の証言とに照して考えると、乙第一、第二号証の記載が事実に合する旨の原審証人萩野誠造、当審証人稲岡喜一郎、伝崎正郎の証言は信用することができない。第一次増資の際の株式申込書記載の名義人と株主名簿記載の株主とが一致していなくても、株式申込をした後権利を他に譲渡する場合もあるから、株主名簿記載の株主は真実の株主でないということはできない。第二次増資について大和藤兵衛が七、五〇〇株を、大和清蔵が一〇、〇〇〇株を他人名義で取得したとの第一審被告の主張については、原審及び当審証人伝崎正郎の証言によつても、これを確認するに足りない。当裁判所が第一審原告が旧法人税法(昭和二十五年法律第六十九号による改正前の昭和二十二年法律第二十八号)三十四条二項に定める同族会社でないものとするその他の判断は、原判決理由(原判決九枚目表五行目から一〇枚目裏三行目まで)記載と同一であるからこれを引用する。

(二)  昭和二三年度の所得について。

原判決添付第一表支出の部原告主張金額欄、諸税金について八一円七〇銭、雑費について三〇〇円の誤算のあることは当事者間に争がない。第一審原告はホテルの三ケ月分の賃料一八、〇〇〇円の計上もれはないと主張するけれども、第一審原告が昭和二十一年十一月六日石神豊一からホテルの建物を買い受け昭和二十二年二月まで改造にかかり、同年三月一日初めて網本庄太郎に賃料一ケ月六、〇〇〇円で賃貸したことは第一審原告の認めるとこであるから、第一審被告の主張するとおり、その後である昭和二十二年十二月分から昭和二十三年二月分まで三ケ月分のホテルの賃料一八、〇〇〇円の計上もれのあつたことは明白である。第一審被告はホテル及び備付の什器備品の賃料を否認すると主張するけれども、第一審原告が同族会社でないことは前示のとおりであるから、第一審被告の右主張は採用できない。収入の部、支出の部ともその他の科目については当事者間に争がないから、昭和二十三年度の収入は一〇八、一二〇円二十四銭、支出は九一、〇二六円三〇銭で、差引所得金額は一七、〇九三円九四銭と認めるべきものである。

(三)  昭和二四年度の所得について。

(1)  キヤバレー総売上高。

キヤバレーのビール販売価格について、原審証人平松アサは「昭和二十四年夏頃突出つき一五〇円である。」と証言し、当審証人大和源三郎、石川与市、香月久子は「突出つき二〇〇円である。」と証言するけれども、右各証言は、成立に争のない乙第二十七号証の大和源三郎に対する聴取書、原審及び当審証人斎藤義勝の証言と対照すると信用することができない。もつとも成立に争のない乙第二十八号証網本庄太郎に対する聴取書によると、天王ホテルではビール一本一八〇円で宿泊者に提供したというのであり、原審証人川崎政次郎は天王ホテルではビール一本突出つき一五〇円で提供したと証言するけれどもキヤバレーと旅館とは営業の性質を異にするから、旅館におけるビールの販売価格をキヤバレーにおけるビールの販売価格の資料とすることはできない。原審証人川崎政次郎の証言中酒一升からちようし十一本をとるのが商売上普通である旨の部分は、成立に争のない乙第三十号証の二別表第二と対照すると信用することができない。

成立に争のない乙第二十九号証、第三十号証の一、二によると、キヤバレー、社交喫茶店における昭和二十八年度の荒利益率は酒類五六パーセントから五七パーセント、料理五九パーセントから六七パーセント、総平均五六パーセントから六〇パーセントであることが認められるが、昭和二十八年に比べて物価上昇の勢の甚しかつた昭和二十年当時においては、右のような荒利益率は、昭和二十八年当時より低くないことは当然のことであるから、昭和二十四年当時において少くともこれと同程度の荒利益があつたものと推認することは不当ではない。しかしながら右荒利益率は酒類と料理とをそれぞれ平均したものであつて、各品目の荒利益率を示すものでないから、第一審被告主張の荒利益率が洋酒六五パーセント、さかな類六五パーセント、果物類六〇パーセントで、前示荒利益率を超過しているからといつて不当ということはできない。原審及び当審証人斎藤義勝の証言によると、右荒利益率及び菓子類の荒利益率五〇パーセントが相当と認められるから、当事者間に争のない仕入額洋酒四二、七六〇円、さかな類一五四、二七七円、果物類四〇五、九〇九円五〇銭、菓子類八一二、三三二円に右荒利益率を適用して売上高を算出すると、洋酒一二二、一七一円、さかな類四四〇、七九一円、果物類一、〇一四、七七三円、菓子類一、六二四、六六四円となり、これにビールの売上高一、四九七、六八六円、日本酒の売上高一〇七、三一五円を加えると飲食品類の総売上高は第一審被告主張のとおり四、八〇七、四〇〇円となる。当事者間に争のない総仕入額二、一四二、七六七円に対し五六パーセントの総平均荒利益率で総売上高を算出すると四、八六九、九二五円となり、右計算が過当でないことが明らかとなる。キヤバレーの総売上高は、これに入場料収入二六四、九〇〇円を加えた五、〇七二、三〇〇円となる。甲第一四号証、当審証人大和源三郎の証言によつても右認定をくつがえすことはできない。

(2)  ホテル総売上高

前示乙第二十八号証によると、第一審原告のホテルでは同業者の競争が激しかつたため組合規約を下廻る料金で営業し、宿泊のみ一人二五〇円二人四〇〇円、朝食二〇〇円、夕食五〇〇円であつたことが認められ、原審及び当審証人今西弁之助の証言によると昭和二十四年当時天王寺地区旅館組合の各旅館においては宿泊料は朝夕食つきで八〇〇円から一、〇〇〇円までであり、休憩と宿泊のみの料金が同額であることが認められる。宿泊は二人連れの場合も相当あつたと考えられるが、その割合が明確でないから、休憩と宿泊のみの料金は全部一人あたり二〇〇円と認める外はない。宴会人員は原審証人伝崎正郎の証言によつても二三回で一回平均一〇人であるというのであるから、計二三〇人と算定すべきものである。乙第三十二号証によつては右料金の認定をくつがえすことはできない。当審証人大和源三郎、増田幸次郎の証言によつても、第一審原告の帳簿が正確に記帳されたものであることを確認するに足りない。

当裁判所が昭和二十四年度の所得について判断するところは、前示洋酒、さかな類、果物類、菓子類の売上高を除いて、前に掲げるものの外、すべて原判決理由(原判決十一枚目表三行目から同裏五行目まで、同十二枚目表二行目から同十三枚目裏一行目まで同裏六行目から同裏十二行目まで)記載と同一であるからこれを引用する。

そうすると、昭和二十四年度の所得は収入の部は、キヤバレーの総売上高五、〇七二、三〇〇円、ホテルの総売上高一、四九六、九九二円でその他の争のないものを加えて六、七五三、三六五円二〇銭となり、支出の部は第一審被告主張の否認の理由のない給料及び手当中二八五、〇〇〇円を除くと当事者間に争のない六、二三六、八七〇円三八銭であるから、差引所得金額は普通所得五一六、四九四円八七銭と認めるべきものである。

従つて第一審被告のした第一審原告の昭和二十三年度所得金額の更正の内前示一七、〇九三円を超える部分、昭和二十四年度所得金額の更正の内五一六、四九四円を超える部分はいずれも違法であるから、これを取り消すべきものであり、第一審原告の請求は右の限度で正当としてこれを認容すべく、その他の部分は失当としてこれを棄却すべきものである。そうすると原判決中これと同趣旨でない部分は取消を免れないが、第一審原告の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九十六条八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 熊野啓五郎 裁判官 岡野幸之助 裁判官坂速雄は病気のため署名押印することができない。裁判長裁判官 熊野啓五郎)

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